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チン、という音が鳴り、オーブントースターから出されたのは香ばしく焼かれたバターロール。 目の前に並べられたのは大きめのハンバーグとサラダ、そしてコンソメスープ。 温められたパンも並べられた。 「時間が無かったから簡単なものだが、食べてくれ」 「十分すぎるよ!」 って、これで簡単って。確かに調理時間短かったけど! 調理時間が短いのは手際がいいからであって、簡単な料理だからではない。 「そうか?とはいえ、料理は久しぶりだからな。味の保証は出来ないぞ」 「問題ない。お前の料理が不味いなどあり得ないからな」 そう言うと、魔女と呼ばれた少女、C.C.は早速ハンバーグを口に含んだ。その瞬間、今までの不敵な笑みや無表情が信じられなくなるほど、幸せそうな笑みを浮かべる。 「これだこれ。流石私のルルーシュ!」 スザクもつられるように自分のハンバーグに箸をいれる。肉汁があふれ出し、とろりとチーズが零れ落ちた。口に入れると、C.C.の負けないほど至福の笑みを浮かべた。 「美味しい!こんな美味しいハンバーグ初めて食べたよ!」 「大袈裟だな。でも、久しぶりにしてはちゃんと出来たな」 ルルーシュもまた口にし、満足げに頷いた。 表面がパリパリに焼かれたパンとハンバーグ。最高においしい。欲を言うならお米が欲しいが、そもそもこの家には炊飯器がない。 「で?君が小人じゃないなら、どうして小さかったのさ?」 コンソメスープを口にしながらそう尋ねると、ルルーシュは箸を置いてC.C.を見た。 「その説明は俺も聞きたいところだ。C.C.話せ」 「まてルルーシュ。お前何でも私に聞けば答えが出ると思っていないか?」 「聞けば、俺が入っていた箱をお前が高額で引き取りに来たらしいな?ならばお前も関係者だろう」 「確かに引き取りに行った。アスプルンドとかいう伯爵が、持ち主を探していると聞いたからな。アレを見た時驚いたぞ。とうの昔に失われた箱だからな」 C.C.はそう言うと、持っていたバッグからあの箱を取り出した。 懐かしそうに、その箱を指でなぞる彼女の眼は、とても優しい物だった。 「失われた?」 「ああ。これはな、マリアンヌが将来ナナリーのためにと、自ら宝石を選び、細工をし、組み上げた物だ」 「母さんが!?」 「え?お母さん?」 思わぬ人物の登場にスザクは目を瞬かせた。 「そう。お前の母マリアンヌがだ。だが、あの日マリアンヌの元から消え失せた」 「あの日・・・まさか」 「マリアンヌが暗殺されたあの日だよ」 暗殺。 その言葉にスザクはルルーシュを見た。青ざめ、怒りを宿したその表情に嘘は無い。 本当に彼は暗殺が身近にある世界で生きていたのだ。 小人の世界ではなく、僕と同じこの人間の世界で。 「では、この箱は」 「マリアンヌを殺害した犯人が持ち出したと私は見ていた。戦利品代わりにな。他の価値ある品には目もくれず、これが無くなっていた。このオルゴール部分鳴らないだろう?これはな、まだ完成していないんだ。オルゴールも全て自分の手で組み上げていたからな」 最初は箱。 次は金細工。 そして宝石。 最後に娘のために作った曲を。 歯車を一つ一つ丁寧に組み合わせ、いつか幼い娘にプレゼントする日を夢見て作られた、たった一つの宝物。 「・・・くっ・・・なんてことだ・・・」 彼は悲痛な顔でうめいた。 スザクはその様子に思わず眉尻を下げたが、C.C.は反対に冷めたような、呆れたような目でルルーシュを見ていた。 「俺はもう少しで母さんの遺作を捨てる所だったなんて!」 犯人が用意した忌々しい箱だと思ったとはいえ、何て事を!! スザクにゴミに出せばいいなど!俺は!俺はっ!! 「お前の後悔など、そんな所だと思ったよ」 呆れたような口調で魔女はパンを齧った。 「何を言う!しかもナナリーへのプレゼントだなんて!」 「いいから黙れこのマザコンシスコン男が」 妙に熱の入ったルルーシュと、完全に冷めているC.C.。 何だろうこの図は。 しかもマザコンとシスコンって。 呆れた様子のスザクに、C.C.は冷めた目のまま更に言った。 「更に言うならブラコンも多少だが患っているからな。こいつの家族愛は洒落にならない。ああ、でも父親は恨んでいるから、ファザコンだけはありえないな」 まあ、過剰な家族愛があってこそのルルーシュなんだが。 C.C.は箸の止まったルルーシュの皿からハンバーグを勝手に半分切り取り自分の皿に移動した。 「枢木スザクに解る様に話すと、今から7年ほど前にルルーシュの母、マリアンヌは殺害された。失われたのはマリアンヌの命とこの宝石箱。だから外部犯、しかも物取の犯行だと皆言っていたが、そんな事はあり得ない話だった」 「ありえない?」 「ああ。あの箱はな、私や一部の者しかしらない手作りの宝石箱だ。あの厳重な警戒がなされているブリタニア宮殿に入り込み、マリアンヌを殺害。そして、外部の物が知るはずの無いあの箱だけを盗み出した。他の宝飾品には一切手を触れず、箱だけだ」 「ちょ、ちょっと待って。ブリタニア宮殿!?」 なんか凄い場所が出てきたんだけど!?と、スザクは待ったをかけた。 「なんだ?お前ルルーシュから聞いてないのか?」 そう言いながらルルーシュへ二人は視線を向けると、ルルーシュは「そう言えば言ってなかったな」と、悪びれることなく口にした。「お前はそういう男だよな」とC.C.は呆れたように言った。 「ルルーシュは神聖ブリタニア帝国皇帝シャルルの実子だ。第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。庶民出の皇妃を母にもつ二人の子供のうちの一人だ」 「・・・へ?え?君、皇子様なの!?いや、確かに美人で一見すると物語に出てきそうな皇子様だし、最初箱に入ってるのを見た時、皇子様の人形だと思ったけど。僕の私服来ても気品とか損なわれないのが凄いけどって。えええ!?ホントに!?あのブリタニアの!?」 驚きのあまり思わずまくしたてたスザクに、ルルーシュはとりあえず頷いて答えた。 こちらは驚くスザクに驚いて少々思考がフリーズしているらしい。 こいつのこういう反応は珍しいなと、C.C.は息を荒げるスザクを見た。 「お前、なかなか面白いな」 C.C.は呆れているのか感心しているのか解らない声音でそう言った。 「え?あ、うん。ありがとう?」 よく解らないが、スザクはそう答えた。 ますます面白いと言いたげにC.C.は魔女の笑みを乗せる。 そして、彼女は一つの物語を語った。 |